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東京地方裁判所 平成3年(上)94号 決定 1991年11月29日

申立人(債務者)

中島嘉一

主文

一  本件不服申立てを却下する。

二  申立費用は申立人の負担とする。

理由

一  申立ての内容

当裁判所は、平成三年一〇月三〇日基本事件の競売開始決定に対する申立人の執行異議を却下する決定をした(平成三年(ヲ)第二三四〇号事件)。

申立人は、上記却下決定に対して、即時抗告と題する書面を提出して、執行異議却下決定の取消と競売開始決定の取消を求め、また、基本事件である本件競売事件を東京高裁に移送するよう求める移送申立書と題する書面を提出している。

二  当裁判所の判断

(1)  本件不服申立てに対する法律の適用

申立人は、上記二つの書面を提出しているが、その趣旨は、上級審である高等裁判所において、上記の執行異議の却下決定の取消及び本件競売開始決定の取消の裁判を求めるものであることは明らかであり、これは執行異議却下決定に対する不服申立てに当たる。

このような上級審に対する不服申立ての性質は、申立人がこれにどのような名前をつけたかによって、決定されるのではなく、当該不服申立てについて適用される法律の内容によって定まるのである。

本件の不服申立ては、民事執行の手続に関する裁判を対象として上級審に対してするものである。民事執行法は、このような不服申立てについて、民事執行法一〇条の規定を設けており、その規定の内容は、上記の不服申立てを執行抗告として扱い、民事訴訟法とは異なる特別の規制に服させることにある。そして、そのような特別の規定があるところから、民事執行の手続に関する裁判を対象とする上記の不服申立てについて、即時抗告などに関する民事訴訟法の規定が準用されないのである(民事執行法二〇条)。

このように、申立人の不服申立てに適用される法律の内容は、民事執行法の執行抗告の規定であり、民事訴訟法の即時抗告の規定や移送の規定ではない。したがって、申立人の不服申立てには、提出された書類の名称にかかわらず、民事執行法一〇条の執行抗告の規定が適用される。

(2)  結論

民事執行法一〇条一項によれば、民事執行の手続に関する裁判に対しては、特別の定めがある場合に限り、執行抗告をすることができる。しかし、執行異議を却下する決定に対しては、上記の特別の規定はない。したがって、執行異議の却下決定に対しては、上級審への不服申立てをすることはできない。

このように本件不服申立ては、不適法であり、その不備を補正することができないことが明かである。したがって、民事執行法一〇条五項の定めるとおり、当裁判所において、却下しなければならないものである。

(裁判官淺生重機)

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